★松下幸之助 / 『道をひらく』
●芋を洗う
上にあるものとても、いつまでも上にいるとはかぎらない。
また下の芋も、いつまでも下積みでいるとはかぎらない。
やがては上にあがってくる。下におりてくる。
何だか人生の縮図みたいである。
人の歩みには大なり小なり浮沈(ふちん)がつきまとう。
上がりっ放しもなければ、下がりっ放しもない。
上がり下がりのくりかえしのうちに、
人は洗われみがかれてゆくのである。
だから、たまたま上にいたとして、おごることはすこしもないし、
下にいたとて悲観する必要もない。
おごりの気持ちや悲観の心が出てきたとき、
芋洗いの姿を思い出すのも、また何かの役にたつであろう。
●国の道
人の歩む道も国の歩む道も結局同じことではなかろうか。
ボンヤリしていては道はひらけぬ。
他人まかせでは道はひらけぬ。
●談笑のうちに
よい自動車は、その性能が良ければ良いほど、余計な音を発しない。
小さい音で、しかもすばらしいスピードで走るのである。
ところが悪い自動車は、ブウブウガタガタ大きな音をたて、
そのくせなかなか速度が出ずに、すぐにエンコしてしまう。
口角(こうかく)アワをとばし、腕をまくらんばかりの大議論をしながら、
一向にものごとが進まないのは、この悪い自動車のように、
どうもあまり感心した姿ではない。
やっぱりよい自動車のように、最小限必要の議論に止め(とどめ)、
それも談笑のうちにスムーズに運んでゆきたいものである。
●求めずして
”苦しい時の神頼み”というけれど、(中略)
それにしてもおたがいに、あまりにも求めすぎはしないか。
頼みすぎはしないか。頼りすぎはしないか。
これは別に神仏に限ったことではない。
日々の暮らしの上でも、
あまりにも他を頼み、他に求めすぎてはいないか。
求めずして己を正す態度というものを今すこし養ってみたい。
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